はじめてのジャマイカでくらった洗礼が衝撃的すぎる|MASTA SIMON インタビュー#2
「Project2」のテーマである“Healthy Junk”の精神をもとに、ゲストに潜む相対する中身、二面性にフィーチャーしていく特別インタビュー。
今回は、日本を代表する唯一無二のダンスホールレゲエ・サウンドであり、国境を越えて世界中のファンからリスペクトを集めるMIGHTY CROWNからMASTA SIMONをゲストに迎える。インタビュアーを務めるのは芸能界屈指のレゲエファンとしても知られるお笑いコンビ・チョコレートプラネットの松尾駿。
「MIGHTY CROWN」結成当時の話や、実弟でありメンバーの一員でもあるSAMI-Tとの関係性について語ってくれたパート1に続き、パート2では初めてジャマイカに渡った時の話や海外での反応について赤裸々に話してくれた。
SIMON「初めてのジャマイカは本当に最悪」
松尾:初めてジャマイカに行ったのは?
SIMON:1993年かな。
松尾:それはいくつのときですか?
SIMON:19歳とか20歳ぐらいかな。
松尾:そのときは何を目的に?
SIMON:やっぱりサウンドをやっているからには、本場ジャマイカに行かなきゃダメだろうというのがあったんだよね。刺激をもらいに、修行をしにとか、本場の雰囲気とかを自分の体で体感しないと、やっぱりダメなんじゃないかと。でも、はじめてのジャマイカは本当に最悪で。
松尾:最悪?
SIMON:こんな国、二度と来ねえと思った。いろいろひど過ぎて。そのときは同級生のCHUCKY SMARTとSAMI-Tの3人で行ったんだよね。どこに泊まっていいかもわからないから、キングストンというエリアがいいらしいぞって聞いて泊まったんだけど、そこがいわゆるギャングというか、そこを仕切っている不良っぽい奴らのエリアで。日本人が来たとなるとワーッと来て「ちょっと連れていってやるから」って。
松尾:「連れていってやるから」ってなんですか!? ギャング?
SIMON:ギャングの一味みたいな。そういう不良の2人組が毎日のように夜になると勝手に来て部屋をガンガンとノックしたりするわけよ。面倒臭いから出なかったりしても、ナイフとかでガンガン叩いて「いるのわかっているんだぞ」って。
松尾:なにが目的なんですか?
SIMON:ようは金が欲しいんじゃない?
松尾:え?
SIMON:で、面倒くさいからバーンってドアを開けて断ると、「いや、ここまで来て、タイヤが削れたからタイヤ代くれ」とか、わけわからない(笑)。
松尾:勝手に来ておいて(笑)。
SIMON:80年代とか90年代とかのジャマイカは常識が通用しない感じだったね。
松尾:その「タイヤ削れちゃった詐欺の人」と遊びに行ったりしたんですか?
SIMON:そいつらとは行かない。でも会っちゃったりするわけよ。キングストンで流行っている所は決まっているから、行ったら「お前なんだよ、さっき部屋まで行ったのによ」とかって言われて、こいつらなんなんだよって(笑)。
松尾:(笑)。
SIMON:最初はもうノイローゼになりそうな感じになるよね。スタジオとかに行ったりしても、当たりが強いというか。1回目の旅は本当にもう嫌だったね。
松尾:1回目はどのぐらいの期間行ったんですか?
SIMON:1か月ぐらい行ったのかな? 飛行機でニューヨークに戻るんだけど、なんかすげえ悔しいというか……。それで、「もう1回リベンジしに行きたい」と思って、次に行ったときには違うところに泊まったんだけど、全然よかった。
松尾:タイヤが削れちゃったような奴が来ない。
SIMON:そうそう(笑)。
松尾:じゃあ最初は本当に場所が悪かったんですね。
SIMON:たまたまだったと思うけどね。まあ、そのおかげでけっこう強くなれたよね。
拳銃に勝つ、ナタを持ったラスタマン!?
松尾:ほかにもヤバかったエピソードとかってありますか?
SIMON:どういうヤバかった? 拳銃とか? そういうのはいっぱいあるね(笑)。なかでもの一番って言うと……、ブジュ・バントンっているでしょ? ブジュが日本に来たときに横浜で知り合って、「お前ら、ジャマイカ来たら俺のスタジオに来い」って誘ってくれたから、ダブを録りにスタジオに行ったんだよ。そうしたら全然ブジュが来なくて、SAMI-TとNANJAMANがローカルの連中とドミノをやってたんだよね。俺はやっていなかったんだけど、別のところにローカルみたいなのが二人いて「知り合いなのかな?」と思ってたら、急に腹から拳銃出して「金出せ!」って。普通にちょっと怖いよね(笑)。
松尾:いや、笑えないですよ。
SIMON:そうしたら、今度はいきなりナタを持ったラスタマンが登場して。
松尾:ナタを持ったラスタマン!?
SIMON:多分ローカルの人だと思うんだけど、ナタを持ったラスタマンが「お前らなにやってるんだ!」って叫んだ瞬間に、オーラと勢いにやられて拳銃持ったやつらが走っていなくなっちゃったの。ギャグだよね本当に(笑)。
松尾:なんすかそれ!?
SIMON:「ナタ勝っちゃうんだ」みたいな(笑)。そういうエピソードはいっぱいあるんだけど、それがいまでもけっこう衝撃で。
松尾:確かに。
SIMON:まあ、ジャマイカ全部がそういうわけじゃなくて、行くところがけっこうそういうところだったのかな。普通に観光とかしていたら、リゾートですごくピースなところもいっぱいあって全然安全だし。そういうところに行っちゃうと、そういう場面に出くわすことがあるんじゃないかな。
世界からリスペクトを集めるMIGHTY CROWN
松尾:僕は以前、どなたかに「日本で僕らが観ているMIGHTY CROWNなんて、まだまだMIGHTY CROWNじゃない」と言われたんです。「やっぱり海外の方がすごいよ」と言われて、それで海外でのMIGHTY CROWNを観てみたいなとずっと思っているんです。
SIMON:うんうん。
松尾:実際、海外での反応ってどうなんですか?
SIMON:やっぱりコロナでなかなか海外でイベントができていなかったんだけど、活動休止に合わせたラストラウンドツアーを海外でやり始めて、その一発目で今年の4月ごろにバミューダに行って。それで、空港に着いたら降りた人を見に犬を持った警官が来るんだけど、その警官が俺らのほう見て「あ、MIGHTY CROWNじゃん、ショー明日でしょ?」って。次に入国審査が終わって税関に来たときに、ほかの人はスルーされるんだけど、俺らだけ「ちょっとお前らチェックだ」みたいな感じで別のほうに連れて行かれて、そこでもいきなり税関の人が「MIGHTY CROWNでしょ? 明日ショー行くから楽しみにしてる」って言って、SAMI-Tが荷物を置いたら「チェックする必要ない、できない!」っていう感じ。どこに行っても、みんなが俺らの事を知っているんだよね。
松尾:えー!
SIMON:日本より海外のほうが全然知られているというか。それで、ショーもすごくよくて、終わってニューヨークへの帰りの飛行機で、パイロットが到着の時に「MIGHTY CROWNお疲れさん! バミューダに来てくれてありがとう」みたいなアナウンスしてくれて。
松尾:マジすか!?
SIMON:こういうのってなかなかないでしょ(笑)。
松尾:ええ!
SIMON:普通に「サウンドやっていてよかったな」って。
松尾:それはシビれますね。
SIMON:なんかすごく愛を感じるというか、イベントも本当に愛があふれていたし、みんな「なんで活動休止しちゃうの?」みたいな。すごくエモい感じというかさ(笑)。
松尾:そういう反応を聞いて「やっぱり活動休止やめよう」みたいにはならないんですか?
SIMON:いやぁ……(笑)。
松尾:僕も思っていますし。
SIMON:それはいろいろな人にすごく言われる。
松尾:別にいいんですよ?「やっぱり続けます!」も全然OKなんですよ。誰も「なんだよ」ってならないし、世界中の人が「OK!」ってなりますよ。
SIMON:でもまあ、1回決めちゃったし、言っちゃったし。どこかで切り替えたいというのもあるんだよね。
松尾:なるほど。
SIMON:解散するわけではないから、どこかで「またやろうか」ってなるかもしれないし、ならないかもしれない。未来は誰にもわからないから。でもまあそうだね。久しぶりにバミューダに行ってショーをやったあとに、「けっこう俺らイケてるな」みたいな(笑)。
松尾:けっこうじゃないです。滅茶苦茶イケてるんです!
次回のパート3では、活動休止に合わせて行われる前代未聞の巨大なパーティーイベントにかける想いや見どころについて聞いていく。