当時は即興ラップできるやつなんか1人もいなかった|Zeebra インタビュー#2
「Project2」のテーマである“Healthy Junk”の精神をもとに、ゲストに潜む相対する中身、二面性にフィーチャーしていく特別インタビュー。今回のゲストは、日本にヒップホップカルチャーを根付かせたと言っても過言ではないカリスマラッパーのZeebra。インタビュアーを務めるのは“Club Queen”の異名を取る、ラッパーでR&BシンガーのLUNA。
“Zeebra”という名前の誕生秘話や貴重な音源を聞かせてくれたパート1に続き、今回は90年代のヒップホップシーンの雰囲気や、フリースタイルの上達を目指す若手へのアドバイスを話してくれた。
90年代フリースタイルバトルの黎明期
LUNA:90年代のフリースタイルと現在のフリースタイルって変化してる?
Zeebra:全然違うね。多分、94、5年ぐらいまでは日本で即興でラップできるやつなんか1人もいなかった。だけど、アメリカでは即興でみんなやってるじゃん。悔しいわけだよ。そこまでできるようにならないと、日本語ラップは完成しないなと思ってた。だから俺は当時だと、たとえばUziだったりRhymeheadだったり、UBG(Urbarian Gym)の面々でとにかくフリースタイルの練習をしまくっていたし。ほかにやっていたのはRHYMESTER周りのFG(FUNKY GRAMMAR UNIT)。うちらの周りでいったらRhymeheadが一番始めにスゲーうまくなって。FGでいったらMELLOW YELLOWのKINちゃんがうまくなって。
LUNA:へー。
Zeebra:それまでのフリースタイルといったら、自分の持ちネタをラップすることがフリースタイルだったんだよ。
LUNA:だからちょっとレゲエの感じ?
Zeebra:ちょっとそれに近いかな。ラバダブの感じにちょっと近いというか。たとえば新しいリリックが出来上がって、みんながいるところに遊びに行ったりするじゃん。それで、「新しいバース聴いてくんねえ?」みたいな。お互いにそれをやり合うってのが、俺たちで言うところのフリースタイルで。別にいまでもUSのフリースタイルとかって、完全即興もあるし、自分で作って来たやつもあるし。まあそこまで全部が本当はフリースタイルなんだけどね。まあ、そういう感じで、当時は本当に完全即興ができるやつは誰もいなかった。
LUNA:確かに、スタジオで練習しているのを聞いたことがある。
Zeebra:当時ね、MICROPHONE PAGERのMASAOとバトルをしたことがあって。向こうが勘違いというか、ほかの人から「キングギドラがMICROPHONE PAGERをディスってるらしい」っていう間違った情報を聞いていて。全然そんなことないんだけど、話が伝言ゲームでそうなっていったらしくて。それで、初めてDJ KEN-BOから紹介されたときに、KEN-BOが「ちょっと2人ともラップしたら」みたいに言うから、INOVADERの車に乗って六本木を一周しながら、お互いにインストかけてラップしたんだけど。俺はまだ普通に自分の持ちネタをやったわけよ。そうしたらMASAOがすっげー勢いで好戦的なことを言ってくるんだけど、韻を踏んでないんだ。「これはなんだ? 俺はいま直接的にディスられてるの?」みたいな。んで、「これもしかしてバトルなの? フリースタイルのバトルになってるの?」みたいな。これは返さなきゃと思って、でも俺は韻を踏みたいから、(韻を踏んで)返したんだけど、4小節ぐらいでそれ以上は韻が踏めなかったの、即興だから。悔しくて、「なんだ!」みたいになって。次の日も同じところに行ったら会ってさ。そのとき「もう1回やろう」みたいになったんだけど。まあ当時は本当にそんな感じ。だからちゃんとMCバトルが即興でできるような時代じゃなかった。
LUNA:何年ぐらいからバトルになったんだろう?
Zeebra:97年とか、そのぐらいなんじゃないかな? 『B BOY PARK』の第1回目のときに「MCバトルやろう」みたいな話になって。CRAZY-Aさんにそれぐらいタイミングでニューヨークに連れていってもらったんだよ。んで、向こうでRock Steady Parkのイベントに連れて行ってくれたんだけど、そのときに「なんかこういうことをもっと日本でやりたいんだよな」みたいなことを言われて。「お前ちょっと手伝ってくれ」って言ってくれたから、「こういうのやりませんか、ああいうのやりませんか」っていろいろと話をするなかで、「MCバトルどうすかね?」って。「どうやら最近、FGの連中がたまにやってるらしいですよ」みたいな話して。
LUNA:FGがイベントっぽくやってたの?
Zeebra:自分たちのパーティのなかで、FGのクルーでバトルをするのが当時あったらしい。それで、「KREVAがすげえうめえらしい」みたいな話があって、「じゃあそれは1回形にしてみましょうよ」ってことで、『B BOY PARK』のMCバトルが始まったんだよ。
LUNA:そうなんだ。
Zeebra:それこそ、第1回から第3回まで3年連続でKREVAが優勝して。あいつはとにかく強かったね。
「ラップはそういう遊びができるから面白いよね」
LUNA:ちなみに、自分史上最高のパンチラインは?
Zeebra:難しいな。いろいろありすぎて言えないんだけど、好きだと思う自分のバースはいくつかあって。たとえばソロのファーストアルバムのなかに入っている「Original Rhyme Animal」はなかなかいい感じかな。韻のレパートリーが、細かいのから長いのまでいろいろとあって。ちょっとリズムも崩しながら面白いことをやったなというのはあるね。あとは、キングギドラの2枚目のアルバムに入ってる「平成維新」の自分のバースとかは、まあよくできましたねと今でも思うし。
LUNA:パンチラインが出たときは「キター!」って?
Zeebra:そうだね。やっぱり俺は韻が硬いのが好きなんだよね。だから硬い韻を考えていくなかで、たとえば同じ韻で4ついったり、6ついったりするときに「まあ、よくもこんだけ辻褄が合う同じ韻が見つかりましたねえ」みたいな。
LUNA:(笑)。最初、前後どっちから考える?
Zeebra:まずはじめが大切だから、歌いだしを考えて、あとはそこから言いたいことがこういう内容だからって考えて……。
LUNA:「これ踏みてえ!」みたいになる?
Zeebra:うん、あるよ。たとえば「ああ、これに対してこんなの見つかっちゃった」とか、「あ、これはあとにとっといたほうがいいぞ」みたいな。たとえば3行目、4行目とかの辺りで考えた韻だけど、「いや! これは全然8行目だろ」とか、「むしろバースのケツをこれで締めたほうがいいだろ」とか、そういうのは考えるね。
LUNA:けっこうパズルな感じ?
Zeebra:そうだね。
LUNA:ラップはそういう遊びができるから面白いよね。
Zeebra:そうだね。
フリースタイル上達のための貴重なアドバイス
LUNA:フリースタイル始めたての「上達したい」という子たちにアドバイスがほしいな。
Zeebra:みんな言うんだけど、“フリースタイル脳”というか、“ライム脳”があるんだよ。言葉を一回母音に分解して、また別な言葉に変えるという“ライム脳”をまずは習得することかな。まあ、当たり前なことなんだけど、いちいち頭のなかで「これはこうだから、ああだから」ってやっていたらなかなか上達できないから。なんか、すげえ簡単な言い方をしちゃうと、空耳みたいな感じかな。「聞き間違えたらこういう風に言えるんじゃないの?」みたいなやつがどれだけ頭にポンポン浮かんでくるか。あとは浮かんだ言葉も韻も、辻褄が合わなかったら言ってもしょうがないわけだから、それをどうやって辻褄を合わせるか。
LUNA:それが一番難しい。
Zeebra:まあ、そこかな。ダブルミーニングを使ったり、いろいろな比喩を使ったりすることで、けっこう形になったりするし。それがむしろラップの面白さじゃん。韻を踏むことによって、思ってもみなかったところにストーリーがいったりするとかさ。
LUNA:グルーヴができたり。
Zeebra:そうそう。だから、まずはそういう脳をうまく作っていくこと。
LUNA:家でもちゃんと練習みたいなことはしてるの?
Zeebra:あまり家ではやらないかな。俺が一番フリースタイルをやるのは酔っ払ったとき(笑)。あとはそうだね、やっぱりラッパーは1人ではあまりやらないから、ほかのやつと一緒にセッションする感じでフリースタイルをすることが多いし。
LUNA:じゃあ、上達したい人は、なるべく誰かと一緒にやっていったほうがいい?
Zeebra:そうだね。よくサイファーとか街中であったりするじゃん、ああいうのはどんどん参加したほうがいいね。
LUNA:なるほど。
次回のパート3では、Zeebraがいま注目している若手ラッパーについて迫る。
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