カルチャーとしてのヒップホップをもっと濃ゆく広めたい|Zeebra インタビュー#4
「Project2」のテーマである“Healthy Junk”の精神をもとに、ゲストに潜む相対する中身、二面性にフィーチャーしていく特別インタビュー。今回のゲストは、日本にヒップホップカルチャーを根付かせたと言っても過言ではないカリスマラッパーのZeebra。インタビュアーを務めるのは“Club Queen”の異名を取る、ラッパーでR&BシンガーのLUNA。
いま注目の若手ラッパーや、自身の活動について熱く語ってくれたパート3に続き、最終回となる今回は、肉を食べない食生活を送る「ペスカタリアン」になったきっかけや、これからの日本のヒップホップに向けるまなざしなどを率直に語ってくれた。
26年前から肉を食べない食生活を送る
LUNA:なぜお肉をやめてペスカタリアンになったの?
Zeebra:これは本当にヒップホップなんですよ。俺が一番尊敬してやまないラッパーのKRS・ワンという方が、ニューヨークのブロンクス出身のラッパーなんだけども、彼はとにかくプロヒューマニストみたいなところがあって、「どうやって生きていくべきか」とか「どうやって考えていくべきか」とか「コミュニティでどうやってやっていくべきか」とか、そういうことを曲にしたり活動したりしている人で。彼が当時から「肉を食うな!」ってひたすら言っていたわけ。もう「(肉を指さして)ポイズン! ポイズン!」って。
LUNA:(笑)
Zeebra:俺は子どものときとか、もうマジで肉しか食わなかったわけ。肉と米をひたすら食う。野菜もほとんど食わない。当時の俺としては「だって牛が草食ってるじゃん? だからそれは牛食っておけば平気じゃね?」というのが持論だったわけ。
LUNA:それは(笑)
Zeebra:だけど、KRS・ワンがそんだけ言うわけだよ。俺も当時、たとえば彼が「ストップ・ザ・バイオレンス」とか言うと、「街中でのバカないざこざはよくないな」ってなったりとか、「あまりケミカルを体に入れるのはよくない」とか言うと、「ああそうですね」となったりとか、とにかく彼の言うことをひたすら聞いていたんだけど、でも肉をやめるだけは全然できなくて。「それだけはできねえんだよなあ」ってなっていたんだけど、俺の周りの、それこそ事務所の社長、副社長は俺の2個上で、俺が14のころからの地元の先輩みたいな感じなんだけど、彼らはレゲエが好きで、けっこう早い段階でラスタファリアンになってたわけですよ。それで、一緒にいるときに食生活を合わせてみることがあるわけ。たとえばカレー食っても豆のカレーを食って「豆のカレーうめえじゃん」とか。そういう風になっていく流れで、俺がちょうど97年にメジャーからソロデビューできて。でも本当ね、10代のころのどうしようもない俺から考えると、俺みたいなやつがメジャーデビューできるって、ちょっとおかしいだろというか。
LUNA:そんなことない(笑)
Zeebra:「普通に考えてなっちゃいけないんじゃね?」みたいな、そういう気持ちもあって。あまりに大きなものをゲットできたから、なにかを失ったほうがいいなと。
LUNA:戒め的な?
Zeebra:俺の名前の白と黒じゃないけど、やっぱりバランスを保つことが俺にとっては大切で。ゲットしたからなにか失おうと思って「よし、このタイミングで肉やめる」となったのが97年だから、26年前ということかな。
LUNA:へー! じゃあどちらかといったら、ラスタファリのほうで。
Zeebra:そうだね、その感覚が一番近いね。やっぱり実体験として感じたのは、もう本当に怖かった先輩がさ、肉をやめたら超丸くなって。
LUNA:血の気がなくなった?
Zeebra:そう、いい意味でね。そういうのも見たし、俺はどちらかというとメンタルの意味でやめてるところがデカいかな。
「イライラしなくなって本当にピースになった」
LUNA:徐々にやめていったってこと?
Zeebra:いや、いきなりやめた。「俺、今日からやめる」ってなってそこから。
LUNA:タバコやめるのと一緒な感じだ。
Zeebra:まあ、そんなような感じだよね。ただね、実際やめたら体が軽くなったというか。別に体重が軽くなったんじゃなくて、俺米とか超食うんだけど、すごく食べてそのあとライブしても別に体が軽いみたいな感じもあったし。あと、イライラしなくなった。これが一番デカい。イライラしなくなって本当にピースになったというのがあるし。あとはなんだろうな? はじめのうちで楽しいのは、いつも「生姜焼き!」とか「ハンバーグ!」とか言っていた店で、違うものを頼んでみることかな。
LUNA:逆にね。
Zeebra:「あ、これもうまいんじゃん」みたいな。
LUNA:いままで頼まなかったものの冒険だね。
Zeebra:そうそう。それがちょっとしてくると「やっぱアレ食いてえな」みたいになってくるんだけど、それを「肉を使わねえで作れねえかな」っていうところになってくるわけ。だから俺も飯を作るようになったし。
LUNA:それまでは作らなかった?
Zeebra:多少はやってたかな。作るのは好きだったけど、本当にやるようになったというか。
LUNA:困ることとかはない?
Zeebra:いまは本当になくなったよ。これが25年前は全然理解されなかったし、「肉抜いてください」って言っても、ハムとかベーコンが入ってくる。「いや、すいません! これも肉なんですけど」って。
LUNA:(笑)
Zeebra:それがわかってもらえなかったし。まあ、いまでもわかってくれない人もいるけどね。でも本当にそういうのとか昔は大変だった。だから海外に行くと向こうのほうがすごく進んでたじゃない、ベジタリアンとかそういうのもね。だからそういうところで「これ、焼肉、豆なの!?」みたいな(笑)
LUNA:(笑)
Zeebra:「なにこれ!」ってLAで大喜びして食ったりとか。
LUNA:いまはもうよかったことのほうが多い?
Zeebra:そうかもね。
LUNA:年齢にくらべると、やっぱり肌はメッチャきれい。あと太らない?
Zeebra:ちょっと最近はさすがに大人になってきたから。
LUNA:お酒もあるから。
Zeebra:まあそうだな。
LUNA:(笑)
Zeebra:俺は昔から量を食うのよ。
LUNA:お米?
Zeebra:お米はいまでも大好きなんだけど、最近はできるだけお米じゃなくて、カリフラワーライスとかああいうものに変えたりしてる。
LUNA:すばらしい。
Zeebra:とにかく普段から家で夜メシを食うとき、ご飯3杯とか当たり前だったし。
LUNA:3杯!?
Zeebra:どこかに行っても大盛以外絶対頼まなかったし。
LUNA:ええー!
Zeebra:いまでもけっこう大盛食っちゃうね。一時期、俺とDJ CELORYとDJ NOBU a.k.a BOMBRUSH!と3人でDJツアーで地方を回っていたときがあったのね。そのときに、CELORYは細いんだけどまあまあ食うのよ、比較的ね。で、NOBUは超デカいじゃん。あいつ超食うよ。それで俺もすげえ食うから、DJ終わって次の日に次の場所に移動ですとなったときに、大体前の日にいっぱい飲んでいるからそば屋とか行きたくなるわけですよ。そば屋に行くんだけど「どうしよっかな。これもうまそうだし、これもうまそうだし、うーん……両方ください」って2品。それで「マジすか、ジブさん2品いくんですか? じゃあ俺も行くっす」ってNOBUも2品。はじめのうちCELORYは「マジすか、すごい食いますね」とか言いながら1品だったのが、段々2品食うようになりはじめて。
LUNA:(笑)
Zeebra:ちなみに俺も最終的にはエスカレートしすぎて3品並べて「さんピンキャンプ」とか言って(笑)
「いいアーティストや、それをプッシュしてくれるやつもいっぱいいる」
LUNA:今後、日本でヒップホップをどう広げていきたいですか?
Zeebra:おかげ様でだいぶ広がったよね。
LUNA:相当広がった。
Zeebra:俺もそんなに心配はしていないというか。前までは「全部俺がやんなきゃな」と思うところがあったけど、最近は別に俺が直接動かなくてもいろいろな面白いこともいっぱいあるし、いいアーティストもどんどん出てくるし、それをプッシュしてくれるやつもいっぱいいるし。だからそういう意味では大分肩の荷が下りたなというのはあるかな。
でも、カルチャーとしてのヒップホップをもっと濃ゆく広められるかということはやっぱり考えたいかな。入口は広くなったんだよ。すごい勢いでバトルも流行って「韻を踏む」ということもみんなわかってくれたし。
だから、ヒップホップという文化がどういうもので、歴史的背景だったり、自分の人生に対していろいろな意味での影響を与えるものであるというようなこともひっくるめて、文化的側面みたいなのはもっと広げていきたいかなと思います。
それこそアメリカではさ、ヒップホップミュージアムがニューヨークにできたりとかあるじゃん。そういうようなものが日本にもできていってほしいなと思うし。そうだな、あとはやっぱりもっと世界に出て行ったほうがいいよね。
LUNA:それは本当に。
Zeebra:本当にそう思う。だからそういうのを俺も手助けできればなと思ってる。